02 / Fragment:ORI
- 味方傷乃

- 2023年10月13日
- 読了時間: 3分
ハドニアで暮らし始めたのはいつだったか。
一つの線を伝うように記憶を辿る。自分の記憶力は良い方だと自負しているが、この部屋で暮らす以前の記憶は曖昧で、ぼやけている。
それでも思い出す。
何か大切なことが、今求めてる答えがそこにある気がするのだ。
五歳の時。ユミトさんに出会い、ハドニアに招かれる前の生活。
両親は、礼拝堂に俺をよく連れて行ってくれた。
大抵、両親の真似をするように椅子に座り、宛もわからないまま祈りを捧げるだけで楽しい用事では無かったけれど。
自分の家庭はお世辞にも裕福とは言えなかっため、その礼拝堂でたまに配られるお菓子が嬉しかった。建物も、鮮やかな色の窓ガラスを通った光が床にたくさん落ちていて綺麗だったのを覚えている。
一体両親は誰に、何に祈りを捧げていたのだろう。
礼拝堂に行った日の両親は、心なしかいつもより元気で、夕食の品も少し多くて。
俺の知らない何かに救われてたのは違いない。
また礼拝堂に行く時間はやってくる。
今日は身なりを整えなさいと言われ、よれてはいるが、ブラウスを着た。
両親は礼拝堂に行くまでの時間をそわそわした様子で過ごしていた。
いつもと同じようで、違う道、違う雰囲気に感じたのは、両親が祈りを捧げる『誰か』がすぐ近くにいるからだろう。聞かなくてもわかるくらい、周りの空気は緊張で重たかった。
普段は自分たち以外にぽつりぽつりと席が埋まっているだけの礼拝堂。今は座る場所などなく、ところ狭しと人がひしめきあっていた。
ひそひそ話し声は聞こえてくるが、内容は聞き取れないくらい小さな声もぴたりと止んだとき。
その場に現れたのは…。
ここからの記憶はさらにぼやけており、次に思い出せるのは、一人で歩いていた俺をユミトさんが見つけてくれた時のこと。
何故一人だったかも、何故歩いていたのかも思い出すことができない。
ユミトさんに、体調が悪くないかと問われ、初めてお腹がすいていることに気づいた。
ユミトさんはバッグの中からパンを取り出し、渡してくれた。
何の味だったかはわからないが、差し出されたパンにはジャムが薄く塗られていた。
少し体力を戻した俺を抱えて、ユミトさんはここに連れてきてくれた。
見知らぬ子供が二人いる、この部屋に。
そこからのハドニアでの記憶は鮮明だ。
暮らしは豊かになった。
…いつと比べて?
洋服は新しい物だし、お腹がすいて苦しむこともない。
…そもそも苦しんだことがあるか?
…………危ない。
ハドニアの前の生活を思い出しても、こうしていつもすぐ忘れそうになる。
自分で作り上げた昔話ではないかとさえ思うほど、過去は遠く遠くに追いやられ、何かに塞がれ、鍵をかけられている。
重要なのは、『礼拝堂で何を見たのか』、『ハドニアに来る直前に何があったのか』なのに。
意図的に、求める答えは誰かに阻まれている。
既に曖昧で実証の無い話をみんなに話して混乱させることはできない。
この話は、もう少し思い出せるその日までとっておこう。
[02 / Fragment:ORI]




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