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(01)living : ELL

  • 執筆者の写真: 味方傷乃
    味方傷乃
  • 2022年1月7日
  • 読了時間: 4分

更新日:2023年10月12日

「この世界ってどのくらい広いのかなあ」

私の隣に座って本を読んでいたマーリユがふと口を開いた。

「エルお姉ちゃんはどう思う?」

「うーん…。どうもこうも、私もこの部屋以外に部屋があるとはなあ…」

この間ユミトさんが持ってきてくれた毛糸を編む手をとめて、思考を巡らせてみる。

「マーリユはねえ、このおそとには、お菓子の家がたくさん建ってると思うの!」

持っていた本を置いて、マーリユは腕をめいっぱい広げてみせた。

「ほうほう、それは素敵だねえ」

「クッキーでできたおうちとか、ケーキがついてる木とか!」

「食べ放題だねえ」

「うん!あ、食べ放題といえば、こないだルアンがずっと食べてなかったフィナンシェをね〜もったいないからもらっちゃったんだ!」

「あらら、怒られなかったの?」

「ルアンばかだから気づいてないよ〜」

「それはどうだか…」

なんて話していると、勢いよくリビングの扉が開いた。

「マーーーーーリユーーーーーーー!!!!!」

入ってきたのは、右手を強く握り、マーリユを睨みつけるルアンくん。

「うわ!ルアン!」

マーリユはささっと私を盾にするように、私の後ろに隠れた。

「俺が大切に取っておいたおやつをよ…よくも…!」

「だってあんなにずっと置いてあったら悪くなっちゃうでしょ!」

「だからマーリユが食べたその日に俺が食べようと、思ってたのに…!」

ルアンくんはその場に力なく膝から崩れ落ちた。

たしかに、ルアンくんは私の作ったお菓子を大事に食べてくれるけど、大事にしすぎていつも植物が生えてくるんじゃないかと心配ではある。

「また作ってあげるら。ね、ルアンくん?マーリユも、ルアンくんにちゃんとあやまろう。人のは勝手に食べちゃダメだよ?」

「うー…うう、ルアン、ごめん…なさい…」

「ぐ、悲しいにかわりはないが、エルちゃんに免じてこの争いは終わりにしよう」

後ろに隠れてたマーリユは、私の隣に戻り座った。

「ねえねえ、僕の手帳知らない?…うわっ!」

リビングに入ってこようとしたマオくんが、床に倒れ伏してたルアンくんに躓く。

「ったいなマオ!ちゃんと前見ろ!」

「前にいなかったから気づかなかったんだけど…」

「ふん…」

ルアンくんはさっきの態度を豹変させて、自分の部屋に戻っていった。

「ひー、ルアンのばかこわいな〜」

マーリユがソファに置いてあったクッションを抱えて言う。

「や、僕も悪かったよ。ルアンなみの身体能力があれば避けれてただろうからね」

それより…と、マオくんがリビングを歩き回る。

「手帳どっかいっちゃったの?いつも持ち歩いてるやつだよね?」

「うん、昨日の夜はメモした覚えあるから、今日なくなっちゃったとは思うんだけど」

「マーリユは見てないなあ。白いやつ?」

「そう、白いカバーに、金色の花のマークがついているやつ」

「私も見てないなあ」

三人してリビングを見渡していると、二階からオリくんが降りてきた。

「これ、本の部屋にあった」

オリくんが手に持っていたのはマオくんが探していた白い手帳。

「それ、僕が探してた手帳。オリさんありがとう」

オリくんはそれだけ渡すと、また二階に戻っていってしまった。

「オリお兄さんは今日もクールだねえ」

マーリユはそう言うと、本の続きを読み始めた。

オリくんはみんなとご飯を食べるとき以外、ほとんど自分の部屋に一人でいることが多い。

彼は発明家だから、その環境が一番集中できていいのかもしれない。

マオくんは手帳をぱらぱらとめくり、確認した後、こちらに視線を向けた。

「ところでエルちゃんは何を作ってるの?それは何?紐?」

マオくんは対面のソファに腰掛け、手帳を机に置いた。

「これは毛糸っていうらしいの。普通の紐より太くてふわふわしてるよ」

毛糸をひっぱってマオくんに差し出す。

「ほんとだ、ふわふわしてる。紐がたくさん集まると毛糸っていうのかな」

「普通の紐ではないと思うけど、そんな見た目だよね」

「これをさらに加工すると布みたいになるんだね」

私が編んだ毛糸を見てマオくんが言う。

「あったかそうだねえ!」

さっきまで本にしか興味がなかったマーリユが突然参加してくる。

私が何をやっていたかわからなかったから、話しかけづらかったんだろうか。

私は50cmほど編み上げた毛糸を、マーリユの首に巻くよう手を回す。

「わー!なにこれ!」

「まふらーって言うのを作ってるんだよ。寒くなったらね、これを首に巻くの」

「へええ!」

「でも僕たちの家、寒いことないからなあ」

ただ興味があって作り始めただけだったが、先ほどの話を思い出す。

「もし、お菓子の家があるところが、冷蔵庫みたいに冷たかったら必要だよね?マーリユ」

「ね〜!」

「え、なになに、お菓子の家があるの?」

「マオおにーちゃんには内緒お〜〜」

マーリユは体をくねくねさせて嬉しそうに言う。

「え、気になるなあ」

マオくんもマーリユの扱いに手馴れているものだ。

「エルお姉ちゃん!それ完成したらちょうだい!」

「うん、完成したら一番にあげるね」

「やった〜!」

マオくんは私たちを見て微笑み、手帳を手にとった。

この生活がずっと続けば良いと思うし、不満があるわけでもない。


だが、その場に停滞するだけではなんとなく、よくない気がするのだ。 [(01)living : ELL]

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